← 号「seisyoness #01」 · 特集「先に出す人たち」

秋の午後、東光院で古井さんに聞きました。 sec#85

事例 · v2 · 本人の直接編集
狙い: 餅つきのあとに畑の土へ移る。宮川ファームがワークショップに使われ、参加者が畑仕事を手伝い、売上の一部が宮川さんに渡る場面を書く。続いて国府津の岡村朝子さんの改修したアパートへ移り、空き部屋を養鶏場の夫婦や宮川さんが格安で借り、岡村さんが畑を手伝って野菜を受け取る日常を置く。説明で結ばず、土のついた手と部屋の距離でつなぐ。約550字。

東光院は大磯の下町にある古い寺だ。北下町、浜の町の道祖神の地域に入る。山門をくぐると正面に本堂がある。大磯を歩いて話を聞いていると、この寺の名前が何度も出てくる。僕は前に一度、うつわの日で訪れたことがあった。

地下がフリースペースになっていて、中学生が四人で遊んでいた。本棚には医療や福祉に関係する本が多い。寺の隣には寺が借りている一軒家があって、改装して公開されている食堂になっている。小学生から高校生までが出入りしていた。多世代食堂おむすびといって、週に三回、みんなで晩御飯を作ってみんなで食べる。運営は寄附で成り立っていて、食材もみんなの寄附だけを使う。大口は月に二十万円を寄付してくれる横浜の人だという。

五月の夕方、副住職の古井さんに話を聞いた。靴を脱いで上がると、畳の匂いがした。線香の煙が天井に向かって細くのぼっていく。

古井さんはもともと東京でデザイン会社をやっていた。信濃町に事務所を構えて、そこでアルバイトに雇っていたのが、東京工芸大学で写真を学んでいた学生だ。その学生が大学を出て実家のこの寺を継ぐとき、一緒に僧侶をやらないかと誘われた。このままだと寺は間違いなく潰れちゃうから、手伝ってほしい。そう言われて決めたのだという。いまその学生が住職で、古井さんが副住職だ。寺のフリーペーパーは、そのころのデザインの技能でつくられている。

古井さんはこう話した。「あなたから30 万円いただくかもしれないけど、その30 万円は別の人に吐き出すことだってあります」。お寺に入ったお金は、お寺に溜まらない。必要としている誰かの方に流れていく。通過するのだ。葬儀も、納棺も、お経を読む以外の仕事も引き受けるが、お代は決めていない。

「昔だったら隣近所の人がしょうがね俺がやってやるよって言ってたものが、選択肢全部サービス化されてお金が介在するようになっている」。古井さんはゆっくり話す。かつて近所の人が「しょうがねえ」と引き受けていた雑事⸺屋根の修理、庭木の剪定、墓の掃除⸺一つひとつが、いつの間にか業者に頼むサービスになった。サービスにはお金がかかる。お金が動くと、近所の人が引き受ける余地がなくなる。

昔は家族がいて当たり前、結婚するのが当たり前、子供が親の面倒を見るのが当たり前だった。そこにある程度の稼ぎと資産があるのも当たり前。でもその条件が全部揃う人は、これからの社会にはそういない。それを前提にした社会の組み立てと地域の再編をしないと、困った人が地域にあふれる。金銭だけのやり取りで人の営みを維持するのは不可能だから、自分の身を守るだけでなく、隣近所でお互いに守り合う形にしていくしかない。だから積極的に人の縁を結ぶ。

古井さんはその変化を、寺という場所から見てきた。そしてこうも言った。自分たちには役場の職員とは違う特性がひとつある。それは二十五年後も五十年後もここに居続けているということだ。いまこうして話しているのは、多分二十五年後も同じように来てもらって同じように話ができる。五十年後も同じように話ができると思う。すごく稀有な関係性だ、と。

だから相談の聞き方も違う。福祉の人や医療の人のやり取りを聞いていると、五年後のことを考えているだろうかと思うことがある。いま相談に乗っている相手の、死ぬ間際のことや、十年後のこと。そこまで見ているかというと疑問が残る。今この瞬間のアプローチとしては悪くないのかもしれないが、時間の軸を伸ばして見れば、違うやり方があるはずだ、と。

現代の寺には、ビジネスと絡めてコンサルまがいのことをやっているところもある。自分たちも最初はそういうことを考えていたけれど、活動していくうちにだんだん今のように思うようになって、ビジネスを意識しないようになった。他の寺からは、寺じゃないんじゃないかと言われる。

会話 #179

記事: section#71

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版履歴

v1 · machine · 2026-07-20 06:46

見出しなし

別の日、僕は宮川ファームの畑に立った。靴の下に土があり、畑は作物を育てる場所であると同時に、ワークショップに使われる場所にもなっていた。ワークショップをする人たちは畑仕事を手伝う。催しが終わると、その売上の一部が宮川さんに渡る。宮川さん自身は主催者ではないが、畑が使われたことで自分も参加する、と話した。[moment#2642]

国府津では、岡村朝子さんが買い取って改修したアパートの話を聞いた。空き部屋には養鶏場の夫婦や宮川さんが入っている。家賃は格安だという。岡村さんは畑を手伝い、野菜を受け取る。部屋を借りる人、畑へ出る人、野菜を渡す人の名前が、同じ話の中に続けて出てきた。[moment#3223]

⚠[要検証] 畑では土のついた手が動き、アパートでは空いていた部屋に人が入る。宮川さんは畑を使ってもらい、岡村さんは部屋を貸し、ワークショップをする人は畑仕事をする。僕のノートには、場所、作業、売上、家賃、野菜の順に、その日に聞いたことが並んだ。[moment#2642][moment#3223]